2026年4月から、日本で新しい税金が始まりました。
「防衛特別法人税」です。
会社員や年金生活者の所得に直接かかる税金ではないため、自分には関係がないと思う人も多いでしょう。しかし、日本株を保有している投資家にとっては、決して無関係ではありません。
なぜなら、防衛特別法人税を支払うのは、日本企業だからです。企業の税引後利益が減れば、配当、自社株買い、設備投資、賃上げなどに使える資金も、その分だけ減少します。
つまり、私たち個人には直接課税されなくても、保有している日本企業の利益を通じて、間接的に負担する可能性があるのです。
1.知らないうちに始まった「防衛特別法人税」
防衛特別法人税は、2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
ただし、すべての会社が2026年4月から直ちに納税するわけではありません。例えば12月決算の会社であれば、原則として2027年1月1日に始まる事業年度から対象になります。
消費税や所得税の増税であれば、ニュースやSNSで大きな議論になるはずです。ところが、防衛特別法人税については、一般の人を巻き込んだ議論があまり盛り上がらないまま、制度が始まりました。
秘密裏に決められたとは言いにくいです。しかし、個人に直接納税通知が届く税金ではなく、年度ごとの税制改正に組み込まれたため、社会全体に十分認識されなかった面はあると思います。
2.防衛特別法人税は、いつ・誰が決めたのか
防衛費増額の財源を増税で確保する方針は、岸田文雄政権だった2022年末に示されました。当時は自民党内からも強い反発があり、防衛費を増税で賄うのか、国債を活用するのかが議論されました。
その後、防衛特別法人税を創設する法律が成立したのは、石破茂総理大臣の第2次石破内閣です。2025年の第217回通常国会で成立し、2025年3月31日に公布されました。
方針を決めたのは岸田政権、具体的な法律として成立させたのは石破政権という流れです。
3.どの法人が対象になり、いくら課税されるのか
防衛特別法人税は、法人税を納める法人を対象とします。株式会社だけでなく、合同会社なども対象です。
税額は、おおむね次の式で計算されます。
防衛特別法人税=基準法人税額から年500万円を差し引いた金額×4%
注意したいのは、会社の利益に直接4%をかける税金ではないことです。通常の法人税を計算した後、その法人税額から500万円を控除し、残った部分に4%をかけます。
例えば、基準法人税額が1億円の企業では、概算税額は次のようになります。
(1億円-500万円)×4%=380万円
法人税額が100億円なら、追加負担は約4億円です。大企業ほど金額は大きくなります。
4.中小企業の多くは課税されない
基準法人税額には年500万円の基礎控除があります。そのため、法人税額が500万円以下であれば、防衛特別法人税の納税額は0円です。
中小法人の法人税率を、年800万円以下の所得部分は15%、800万円を超える部分は23.2%として単純計算すると、法人税額が500万円に達する課税所得は、およそ2,438万円です。
したがって、課税所得が年間2,400万円前後に達しない中小企業では、原則として実際の税負担は発生しません。
ただし、防衛特別法人税額が0円であっても、対象事業年度については申告が必要とされています。
5.日本企業の利益はどれだけ減るのか
防衛特別法人税の対象となる法人では、法人実効税率(法人税や法人事業税などを合計した実質的な税率)が、標準的なケースで29.74%から30.64%へ上昇します。
上昇幅は約0.90ポイントです。企業利益のすべてが4%減るわけではありませんが、これまで株主や企業内部に残っていた利益の一部が、毎年、税金として流出することになります。
1社ごとの影響は小さく見えても、上場企業全体では相当な金額になります。政府の立場では防衛力強化の財源ですが、株主の立場では企業利益から差し引かれる新たなコストです。
6.配当・自社株買い・企業価値への影響
企業が株主に支払う配当は、税金を支払った後に残る利益から出されます。そのため、税負担が増えることは、理論上、配当原資の減少要因になります。
ただし、防衛特別法人税が始まったからといって、配当が直ちに同じ割合だけ減るとは限りません。
企業には、内部留保を取り崩して配当を維持する、販売価格へ転嫁する、自社株買いを減らす、設備投資を抑えるなど、複数の選択肢があるからです。
投資家が見るべきなのは、配当だけではありません。
- 配当金
- 自社株買い
- 設備投資
- 研究開発費
- 賃上げ
- 内部留保
防衛特別法人税は、これらに振り向けられる資金を、わずかながら減らします。
また、企業価値は将来生み出すキャッシュフロー(会社に残る現金)の現在価値で評価されます。税引後利益とキャッシュフローが恒久的に減れば、理論上は株価評価にもマイナス要因になります。
7.日本株投資家と米国株投資家で影響はどう違うのか
防衛特別法人税の直接的な影響を受けるのは、主に日本で法人税を納める企業です。
| 投資対象 | 主な影響 |
|---|---|
| 日本の大型株 | 税引後利益を通じて直接影響を受けやすい |
| 日本の中小型株 | 法人税額500万円以下なら納税額は原則0円 |
| 日経平均・TOPIX連動商品 | 組入企業を通じて影響を受ける |
| 米国株 | 米国本社の利益には原則として直接課税されない |
| S&P500連動商品 | 直接的な影響は限定的 |
アップル、マイクロソフト、エヌビディアなどの米国本社の利益に、日本の防衛特別法人税が直接かかるわけではありません。
ただし、米国企業が日本国内に子会社や支店を持ち、そこで法人税を納めている場合、その日本事業部分は影響を受ける可能性があります。それでも、世界全体で巨額の利益を上げる米国企業にとっては、通常、日本株ほど直接的な影響は大きくありません。
同じ投資家でも、日本株を中心に保有する人と、米国株を中心に保有する人では、この税の影響が異なるのです。
8.防衛費は増税ではなく国債で賄うべきなのか
防衛力を強化する必要性と、その財源を法人増税で確保することが適切かどうかは、分けて考える必要があります。
増税に反対する立場では、防衛装備や基地施設は長期間にわたって使用するため、国債を発行して将来世代を含めて負担すべきだという考え方があります。また、企業への増税は、投資、賃金、配当、国際競争力を低下させるとの指摘もあります。高市総理が率いる政権は責任ある積極財政ですから、こちらの立場ですね。
一方、増税を支持する立場では、毎年継続する防衛費を国債だけで賄えば、政府債務がさらに増え、将来の利払い負担や税負担につながると主張します。こちらは、財務省がよく繰り返し訴えている「国債は負担を消すものではなく、負担する時期を将来へ移す仕組み」です。そのため、増税か国債かという議論は、現在の企業に負担させるのか、将来世代を含む国民全体に負担させるのかという問題でもあります。岸田政権と石破政権はこちらの立場でした。
9.投資家として、この税をどう見るべきか
防衛特別法人税は、会社員や年金生活者の所得に直接課税される税金ではありません。しかし、だからといって、個人投資家に関係がないわけではありません。
日本企業の利益に課税されれば、その負担は配当、自社株買い、設備投資、賃金、販売価格などを通じて、最終的には株主、従業員、消費者へ分散されます。
特に日本株投資家にとって重要なのは、税率の数字だけではありません。企業が増えた税負担を、どこで吸収するかです。
価格転嫁できる企業、利益率が高い企業、海外収益が大きい企業、強いブランドや競争力を持つ企業は、影響を吸収しやすいでしょう。一方、利益率が低く、価格転嫁が難しく、国内事業への依存度が高い企業では、株主還元や投資余力への影響が相対的に大きくなる可能性があります。
私たちには直接納付書が届きません。しかし、保有している日本企業には納税義務が生じます。
自分には課税されていないように見えても、自分が保有する会社の利益には課税されている。
これが、個人投資家から見た防衛特別法人税の本質だと思います。
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