室井のマーケット視点
8月20日の米国株式市場は、S&P500が-0.87%、Dow30が-1.32%、NASDAQが-1.00%となり、主要3指数がそろって下落しました。WTI原油先物は+2.64%の86.62ドル、米10年国債利回りは4.696%まで上昇しています。私は、この日の株安は単なる利益確定ではなく、「原油高と高金利が同時に進むことへの警戒」が中心だったと見ています。
特に気になったのは、米国経済の強さが、今回は株価に素直なプラスとして働かなかったことです。8月のフィラデルフィア連銀製造業景気指数は47.4と予想24.1を大幅に上回り、新規失業保険申請件数も20.6万件と低水準でした。本来なら景気後退懸念を和らげる数字ですが、今の市場では「景気が強いならFRBは金利を下げにくい」という連想が先に立ちます。米10年国債利回りが4.7%近くまで上昇したことで、株式の評価水準そのものが再び問われる一日になりました。
そこへWTI原油先物が86ドル台まで上昇しました。原油高はエネルギー株にはプラスですが、経済全体ではガソリン、物流、製造コストを押し上げます。原油高が長引けば、せっかく落ち着きつつあったインフレが再び強まる可能性があります。金利と原油が同時に上がる局面は、株式市場にとってあまり居心地が良くありません。
セクター別を見ると、その構図がよく分かります。素材(Basic Materials)が+0.75%、エネルギー(Energy)が+0.68%と上昇した一方、生活必需品(Consumer Defensive)は-2.16%、ヘルスケア(Healthcare)は-1.80%、工業・産業(Industrials)は-1.73%、一般消費材(Consumer Cyclical)は-1.37%となりました。全面的な景気後退を織り込む相場というより、インフレや金利上昇に強い分野と弱い分野を市場が選別している印象です。
Walmartが-9.15%と急落したことも重要です。EPSと売上高そのものは市場予想を上回りました。それでも株価が大きく売られたのは、投資家が過去の数字よりも、これからの米国消費を心配したからでしょう。ガソリンや生活費の上昇が続けば、所得が増えていても自由に使えるお金は減ります。米国経済の約7割を占める個人消費を見るうえで、私はWalmartのような巨大小売企業の決算を景気の体温計として重視しています。
一方で、株式市場が一斉に悪化しているわけではありません。Deereは好決算を受けて+6.94%、Marvell Technologyは+5.79%、Lumentumは+6.24%となりました。NASDAQが1%下落している日に、AI関連の一角が5%以上上昇しているところが重要です。「AI関連株が終わった」のではなく、AIという看板だけで買われる相場から、実際に売上や利益へつながる企業を選別する相場へ移っていると私は見ています。
AIはGPUだけでは動きません。大量の電力、通信設備、冷却設備、非常用電源、建物そのものが必要です。MarvellやLumentumの上昇を見ると、AI投資の中心が半導体だけではなく、高速通信や光通信へ広がっていることが分かります。さらにDeereの建設部門の強さまで考えると、AI投資は工場やデータセンターを実際に造る設備投資へ波及していると考えた方が自然です。
ドル円は159.105円まで上昇しました。米長期金利の上昇によって日米金利差が改めて注目され、ドル高・円安が進んでいます。日本から米国株へ投資している場合、米国株が下落しても円安によって円換算の損失が一部相殺されます。
VIX指数は+7.81%上昇しましたが16.05にとどまっています。投資家の警戒感は確かに高まりましたが、まだ市場が恐怖に包まれている水準ではありません。主要3指数が1%前後下落しただけで投資方針を変える必要はないと私は考えています。長期投資では「いつ買うか」以上に「市場から退出しないこと」の方が重要だったと思っています。8月20日のような下落日は、怖がって市場から逃げる日というより、原油、金利、企業利益、そして市場のお金がどこへ移動しているのかを冷静に確認する日です。
今後の焦点は、原油高が一時的なものに終わるのか、そして米10年国債利回りが4.7%を超えてさらに上昇するのかです。この2つが落ち着けば、米国企業の利益成長が再び株価の中心になります。逆に原油と金利が同時に上昇し続ける場合は、高PER銘柄だけでなく米国消費にも影響が広がる可能性があります。
指数の1日の上下より、「企業は利益を増やせているのか」「AI投資は実際の売上につながっているのか」「市場のお金はどこへ移動しているのか」。私は引き続き、この3点を見ながら米国株市場を追っていきます。
投資は自己責任にてお願いします。
S&P500ヒートマップ
5%以上上昇したS&P500構成銘柄
- NDSN:Nordson Corporation(工業・産業) +8.00%
Nordsonは好決算を受けて大幅高となりました。2026年度第3四半期の調整後EPSは3.25ドルと市場予想の3.09ドルを上回り、売上高も前年同期比10%増の8.18億ドルとなりました。受注残も前年同期比35%増加し、通期業績見通しを再び引き上げています。半導体や医療向け精密機器の需要が強く、業績成長の持続性が評価された上昇です。 - COIN:Coinbase Global, Inc. Class A(金融) +7.58%
Coinbaseは暗号資産市場の急反発を受けて上昇しました。ビットコインが7万ドル台を回復したことに加え、トランプ大統領が暗号資産の規制区分を明確化するCLARITY法案の成立を議会に求めたことで、規制環境改善への期待が高まりました。暗号資産の取引量増加はCoinbaseの手数料収入増加につながるため、ビットコイン上昇と規制緩和期待の双方が株価を押し上げました。 - DE:Deere & Company(工業・産業) +6.94%
Deereは市場予想を上回る決算と業績見通しの引き上げを受けて大幅高となりました。第3四半期EPSは5.10ドルとなり、売上高も前年同期比6%増加しました。特に建設・林業部門の売上高が18%増加し、米国内のインフラ投資やAIデータセンター建設に伴う建設機械需要が伸びています。農業機械の低迷を建設関連が補う構造が鮮明になった点を市場は高く評価しました。 - LITE:Lumentum Holdings, Inc.(先端技術) +6.24%
LumentumはAIデータセンター向け光通信需要への期待から再び買われました。直近の決算では売上高が前年同期比2倍超となり、次四半期の売上高とEPS見通しも市場予想を上回っています。AIではGPUの性能向上だけでなく、大量のデータを高速でやり取りする光通信網が不可欠です。1.6テラビット級光部品や高出力レーザーの需要拡大が続くとの期待が、株価上昇につながっています。 - Q:Qnity Electronics, Inc.(先端技術) +5.93%
Qnity Electronicsは半導体関連株への買い戻しに加え、先端半導体材料への設備投資が評価されました。同社はKLA製の最新ウエハー欠陥検査装置を米マサチューセッツ州の研究・製造拠点へ導入し、EUV(極端紫外線を使う最先端半導体製造技術)向け材料の開発能力を強化しています。AIや高性能計算向け半導体の微細化が進むほど材料と工程管理の重要性が高まるため、中長期の成長期待が買いにつながりました。 - MRVL:Marvell Technology, Inc.(先端技術) +5.79%
MarvellはGoogleとの大型AI半導体提携を引き続き好感して上昇しました。GoogleはMarvellとカスタムAIチップ、ネットワーク、メモリー関連技術の共同開発を拡大し、条件次第では2033年までに最大1,200億ドル規模の製品購入につながる契約となっています。AIデータセンターではGPUだけでなく専用半導体や高速通信の需要も急増しており、Marvellがその中核企業へ成長する可能性が再評価されています。 - CF:CF Industries Holdings, Inc.(素材) +5.59%
CF Industriesは窒素肥料価格の底堅さと、中東情勢による世界的な供給制約への警戒から買われました。窒素肥料は天然ガスを主要原料としており、中東や欧州でエネルギー供給が不安定になると、北米で比較的安価な天然ガスを利用できる同社の競争力が高まりやすくなります。直近の決算には弱い部分もありましたが、世界の肥料需給が引き締まる可能性を見込んだ買い戻しが入ったと考えられます。
5%以上下落したS&P500構成銘柄
- BSX:Boston Scientific Corporation(ヘルスケア) -5.08%
Boston Scientificは大きく下落しました。業績悪化につながる明確な新規材料は見当たりにくく、これまでの株価上昇に対する利益確定売りの影響が大きかったと考えられます。予想PERは約20倍まで低下していますが、医療機器株は成長期待を先行して織り込みやすく、市場全体でリスク回避姿勢が強まったことで売りが膨らみました。 - STLD:Steel Dynamics, Inc.(素材) -5.20%
Steel Dynamicsは5%を超えて下落しました。原油高や長期金利上昇によって米国景気への警戒が強まり、景気動向の影響を受けやすい鉄鋼株から資金が流出しました。同社の利益成長率は高いものの、鉄鋼価格や建設・製造業需要に業績が左右されます。この日は米国株全体の下落も重なり、前日まで上昇していた景気敏感株に利益確定売りが広がったとみられます。 - CRWD:CrowdStrike Holdings, Inc. Class A(先端技術) -5.60%
CrowdStrikeは大型グロース株への売りが続く中で下落しました。サイバーセキュリティ需要そのものは強く、希薄化EPS成長率も高い水準ですが、将来の利益成長を大きく織り込んだ株価は金利上昇局面で売られやすくなります。米長期金利の上昇によって高バリュエーション(企業価値評価)の先端技術株から資金を減らす動きが続き、同社にも売りが波及しました。 - ISRG:Intuitive Surgical, Inc.(ヘルスケア) -5.84%
手術支援ロボット「da Vinci」で知られるIntuitive Surgicalは大幅安となりました。業績は引き続き成長していますが、予想PERは40倍を超えており、成長期待をかなり織り込んだ株価水準です。米長期金利が上昇し、S&P500やNASDAQも下落する中、高評価の成長株を中心に利益確定売りが入りました。事業環境の急変というより、相場全体のリスク回避による調整の色が強い下落です。 - WMT:Walmart Inc.(生活必需品) -9.15%
Walmartは決算発表を受けて急落しました。既存店売上高は+2.6%にとどまり、市場予想の+3.8%を下回りました。ガソリン価格の高止まりによって消費者が支出を抑え、来店客数や1回当たり購入額の伸びも鈍化しています。通期見通しは引き上げたものの、第3四半期の調整後EPS見通しが市場予想を下回り、米国消費の減速懸念と高い株価評価への警戒が重なりました。 - MRNA:Moderna, Inc.(ヘルスケア) -23.58%
Modernaは前日に約177%という異例の急騰を記録した反動から、23%を超える急落となりました。前日はMerckと共同開発する個別化mRNAがん治療薬の良好な後期臨床試験結果を受け、空売り投資家の買い戻しも加わって株価が一気に上昇していました。この日は新たな重大な悪材料というより、短期間で急激に上昇した株価に対する利益確定売りが集中したと考えるのが自然です。
セクター別騰落率
市場全体では、素材(Basic Materials)とエネルギー(Energy)が上昇した一方、生活必需品(Consumer Defensive)、ヘルスケア(Healthcare)、工業・産業(Industrials)、一般消費材(Consumer Cyclical)が1%を超えて下落しました。原油価格と米10年国債利回りの上昇が同時に進み、インフレ再加速や高金利長期化への警戒から幅広い銘柄に売りが出ています。特に消費関連の弱さが目立ち、Walmartの決算をきっかけに米国家計の購買力への懸念も強まりました。
- 一般消費材(Consumer Cyclical) -1.37%
一般消費材は1%を超えて下落しました。WTI原油先物が86ドル台まで上昇し、ガソリン価格や輸送費の上昇が家計の自由に使えるお金を圧迫するとの警戒が強まりました。米10年国債利回りも4.696%へ上昇しており、自動車や住宅関連など金利の影響を受けやすい分野には厳しい環境です。米国消費の底堅さを前提としてきた市場に、やや慎重な見方が入り始めています。 - 工業・産業(Industrials) -1.73%
工業・産業は大幅に下落しました。長期金利の上昇と原油高が重なり、景気敏感株を中心に利益確定売りが広がっています。設備投資や建設需要はAIデータセンター関連を中心に強さを維持していますが、資金調達コストや燃料・物流費の上昇は企業利益を圧迫する要因になります。一方、Deereのように好決算で上昇した銘柄もあり、セクター全体が悪化したというより、企業ごとの選別が強まった一日でした。 - ヘルスケア(Healthcare) -1.80%
ヘルスケアは1.80%下落しました。Modernaが23%を超えて急落したほか、Intuitive SurgicalやBoston Scientificも5%以上下落し、セクター全体を押し下げました。Modernaは前日の急騰に対する利益確定売りの色合いが強く、医療機器株では高い株価評価への警戒も見られます。通常は景気変動に強いディフェンシブ分野ですが、この日は個別銘柄の大幅安がセクター指数に強く反映されました。 - 生活必需品(Consumer Defensive) -2.16%
生活必需品は全セクターで最大の下落となりました。Walmartが決算を受けて9%を超えて下落した影響が大きく、米国消費への警戒が一気に強まりました。食品や日用品は景気に左右されにくい分野ですが、ガソリン価格や生活費の上昇が続けば、消費者は購入数量や商品構成を見直します。原油高と高金利が同時進行する現在の環境では、ディフェンシブ株だから安全という単純な構図ではないことを示す一日でした。
主要3指数とドル円の動き
- S&P500(7,641.16、前日比-0.87%)
S&P500は7,690.49で始まり、一時7,699.96まで上昇しましたが、その後は売りが優勢となり、ほぼ安値圏の7,641.16で取引を終えました。米長期金利が再び上昇し、高PER(株価収益率が高い)の成長株が売られたことに加え、Walmartの決算をきっかけに米国消費への警戒も強まりました。原油高によるインフレ再加速への懸念もあり、市場全体で株式の評価水準を見直す動きが出ています。長期投資家としては、指数の1日の下落より、企業利益と金利の関係を継続して見ていきたい局面です。 - Dow30(52,759.21、前日比-1.32%)
Dow30は主要3指数の中で最も大きく下落し、703.84ドル安となりました。始値53,381.22がそのまま高値となり、終日ほぼ右肩下がりで推移しています。構成銘柄のWalmartが決算を受けて9%を超えて下落したことが指数を押し下げたほか、長期金利の上昇によって景気敏感株や大型株にも売りが広がりました。小売大手の株価急落は、単なる1社の問題ではなく、高いガソリン価格や物価上昇が米国家計に与える影響を市場が改めて確認した動きとして見ています。 - NASDAQ(26,067.17、前日比-1.00%)
NASDAQは263.92ポイント安となりました。米長期金利の上昇は、将来の利益成長を高く評価されているAI・半導体・ソフトウェアなどのグロース株に特に影響しやすく、この日も先端技術株への売りにつながりました。ただし、すべてのAI関連株が売られたわけではなく、MarvellやLumentumなど個別材料を持つ銘柄には買いも入っています。私は、現在の市場をAI投資そのものへの悲観というより、高い株価評価に対して企業ごとの利益成長を厳しく選別する段階と見ています。 - ドル円(159.105円、前日比+0.64%)
ドル円は158.11円から始まり、安値158.012円から高値159.179円まで上昇し、159.105円で取引を終えました。米国債利回りが再び上昇したことで日米金利差が拡大し、ドル買い・円売りが進みました。米財務省による長期国債買い戻し拡大で一時低下した米金利が再上昇したことも、ドル高につながっています。米国株へ円建てで投資する立場では、株価下落の一部を円安が和らげますが、159円台はかなりの円安水準です。株価と為替を別々ではなく、合わせて見る必要があります。
原油先物・米10年国債利回り・VIX・金先物の動き
- WTI原油先物(86.62ドル、前日比+2.64%)
WTI原油先物は86ドル台まで大きく上昇しました。中東情勢を巡る供給不安が続く中、原油市場ではリスクを価格へ織り込む動きが強まっています。原油高が長引けばガソリンや輸送費を通じて物価を押し上げ、FRBの金融政策にも影響します。この日は株安と原油高が同時進行しており、株式市場にとってはインフレ再加速への警戒が必要な組み合わせです。 - 米10年国債利回り(4.696%、前日比+0.92%)
米10年国債利回りは4.696%まで上昇しました。原油高によるインフレ再加速への警戒から、長期債が売られて金利が上昇したと考えられます。4.7%に近い長期金利は、将来利益への期待が株価に大きく織り込まれているAI・半導体などの高PER銘柄には厳しい水準です。S&P500とNASDAQが下落した背景を考えるうえでも、この日の米長期金利上昇は重要です。 - VIX指数(16.05、前日比+7.81%)
VIX指数は16.05へ上昇しました。VIXは「恐怖指数」とも呼ばれ、株式市場で予想される値動きの大きさを示します。前日比では7%を超える上昇となり、主要3指数の下落とともに投資家の警戒感が強まったことが分かります。ただし16台は歴史的に見て極端な不安水準ではありません。長期投資家としては、株価が1%前後下がっただけで投資方針を変えるような局面ではないと見ています。 - 金先物(4,582.60ドル、前日比+0.82%)
金先物は4,582.60ドルへ上昇しました。通常、米長期金利の上昇は利息を生まない金には不利ですが、この日は金利上昇と金価格上昇が同時に起きています。中東情勢への警戒や原油高によるインフレ懸念から、安全資産やインフレ対策として金を保有する需要も根強いと考えられます。株式、債券、原油が不安定な局面で、金が分散投資先として機能している点には注目しています。
私のポートフォリオ +0.17%(前日比)
私のポートフォリオは前日比+0.17%と、小幅ながらプラスで終わりました。iFreeETF FANG+が+0.90%、MAXISナスダック100上場投信が+0.30%、MAXIS米国株式(S&P500)上場投信も+0.17%となり、成長株系ETFが全体を押し上げました。一方、eMAXIS Slim米国株式(S&P500)は-0.38%、米国連続増配株ETFは-0.15%でした。
昨夜の米国市場はS&P500が-0.87%、NASDAQが-1.00%と下落しましたが、日本市場で取引されるETFには値動きの反映時間や為替の影響があります。ドル円が159円台まで円安に進んだことも、円建て資産にはプラス方向に働いています。
個人的には、1日の+0.17%という数字より、S&P500、NASDAQ100、FANG+、連続増配株を組み合わせることで、成長株だけに偏り過ぎない運用を続けることを重視しています。相場が下がる日もありますが、長期投資では日々の上下に合わせて投資方針を変えないことが大切だと考えています。
経済指標発表結果
- フィラデルフィア連銀製造業景気指数(47.4、予想24.1、前回41.4)
8月のフィラデルフィア連銀製造業景気指数は47.4となり、市場予想の24.1を大幅に上回りました。前回の41.4からも上昇しており、米国製造業の活動が想定以上に強いことを示しています。景気の底堅さを確認できる内容ですが、同時にインフレ圧力やFRBの利下げ余地を狭める可能性もあります。この日の米10年国債利回りが4.696%まで上昇した背景を考えるうえで、重要な指標だったと見ています。 - フィラデルフィア連銀雇用指数(27.9、前回10.0)
雇用指数は27.9となり、前回の10.0から大幅に上昇しました。製造業企業の採用姿勢が強まっていることを示しており、労働市場の急激な悪化を警戒していた投資家には安心材料です。一方、雇用の強さが賃金上昇やサービス価格の高止まりにつながれば、FRBは急いで利下げする必要がなくなります。株式市場には景気面でプラス、金利面ではマイナスという両面を持つ結果でした。 - フィラデルフィア連銀設備投資指数(48.20、前回30.10)
設備投資指数は48.20まで上昇し、前回の30.10から大きく改善しました。企業が将来の需要に一定の自信を持ち、生産設備への投資を増やそうとしていることがうかがえます。長期投資家としては、AIデータセンターや製造業の国内回帰を含め、米国企業の設備投資が継続している点は重要です。ただし、設備投資の強さは景気過熱や金利高止まりにもつながるため、株価には単純な好材料とは言い切れません。 - 新規失業保険申請件数(20.6万件、予想21.0万件、前回21.2万件)
新規失業保険申請件数は20.6万件となり、市場予想の21.0万件を下回りました。失業保険の新規申請が少ないことは、企業による解雇が限定的で、米国の労働市場が依然として堅調であることを示します。景気後退への警戒を和らげる一方、FRBが早期に金融緩和へ動く必要性も低下します。この日は債券利回りが上昇し、NASDAQなどグロース株には売りが出やすい環境となりました。 - 失業保険継続申請件数(179.9万件、予想179.0万件、前回178.1万件)
継続申請件数は179.9万件となり、予想の179.0万件と前回の178.1万件をやや上回りました。新規申請件数は低水準ですが、いったん失業すると次の仕事を見つけるまでに少し時間がかかっている可能性があります。雇用市場は「急激な悪化ではないものの、完全に過熱しているわけでもない」という状態です。FRBにとっては、インフレと雇用の両方を慎重に見極める必要がある内容でした。 - 米国景気先行指数(前月比+0.2%、予想+0.1%、前回-0.1%)
7月の米国景気先行指数は前月比+0.2%となり、市場予想の+0.1%を上回り、前回の-0.1%からプラスへ転じました。将来の景気動向を示す複数の指標をまとめた指数であり、米国経済がすぐに景気後退へ入る可能性が低下したことを示します。一方、景気が強ければ金利も下がりにくくなるため、高PERの成長株には評価面で厳しい環境が続きます。この日の株安は、景気悪化よりも「強い景気と高金利の長期化」を警戒した面が大きかったと考えています。 - 30年TIPS入札利回り(2.973%、前回2.473%)
30年TIPS(物価連動国債)の入札利回りは2.973%となり、前回の2.473%から大幅に上昇しました。TIPSはインフレを考慮した実質金利を把握する材料であり、実質利回りの上昇は株式、とりわけ将来利益への期待が大きいグロース株には厳しい条件です。米10年国債利回りが4.7%近くまで上昇したこの日の市場では、インフレと金利が再び株価評価の中心テーマになったと感じています。
主要銘柄の決算発表結果
- WMT:Walmart Inc.(生活必需品)
WalmartはEPSが0.81ドルと市場予想の0.74ドルを上回り、売上高も1,879億ドルと予想の1,867.5億ドルを上回りました。しかし、米国内の既存店売上高の伸びが市場予想を下回り、ガソリン価格上昇による家計負担への警戒が強まりました。通期見通しを引き上げたものの、第3四半期の利益見通しは市場期待に届かず、株価は通常取引で-9.15%と急落しました。時間外では+0.14%と小幅に戻しています。米国最大の小売企業だけに、今回の結果は個人消費の先行きを考えるうえでも重要です。 - DE:Deere & Company(工業・産業)
DeereはEPSが5.10ドルと市場予想の4.69ドルを上回り、売上高も126.1億ドルと予想の108.1億ドルを上回りました。さらに2026年度の純利益見通しを引き上げ、株価は+6.94%と大幅高となりました。特に建設・林業部門が好調で、米国内のインフラ投資に加え、AIデータセンター建設に伴う建設機械需要が拡大しています。農業機械需要には弱さが残っていますが、AI投資が半導体だけでなく建設分野まで波及していることを示す決算として注目しています。時間外では-0.14%でした。 - ROST:Ross Stores, Inc.(一般消費材)
Ross Storesは市場終了後に決算を発表し、EPSは2.66ドルと市場予想の1.94ドルを大幅に上回りました。売上高も63億ドルとなり、予想の61.5億ドルを上回っています。通常取引では-2.43%でしたが、好決算を受けて時間外取引では+4.54%へ反発しました。物価高やガソリン価格上昇で米国家計への負担が増すなか、ブランド品などを割安で販売するオフプライス業態への需要は強さを保っています。Walmartの決算とは対照的な反応となり、米国消費の中でも「価格を重視する動き」が強まっていることがうかがえます。
主な経済ニュース
- 米長期金利が再上昇、株式市場は全面安
前日に米財務省が長期国債の買い戻し上限を2倍に引き上げたことで米長期金利はいったん低下しましたが、その効果は長続きしませんでした。20日は米10年国債利回りが4.696%まで上昇し、S&P500は-0.87%、Dow30は-1.32%、NASDAQは-1.00%となりました。原油高によるインフレ再加速懸念も加わり、投資家は高PERの成長株だけでなく幅広い銘柄でリスクを落とす動きとなりました。(Reuters:08/20) - Walmart急落、米国消費への警戒が強まる
WalmartはEPSと売上高では市場予想を上回りましたが、米国の既存店売上高の伸びが期待に届かず、株価は-9.15%と急落しました。高いガソリン価格や生活費の上昇が家計の購買力を圧迫しているとの見方が強まり、Costcoなど他の小売株にも売りが波及しました。米国GDPの約7割を占める個人消費の先行きを考えるうえで、今回のWalmartの株価反応は単なる1社の決算以上の意味を持つと感じています。(Reuters:08/20) - 原油が2%超上昇、中東情勢がインフレ懸念を再燃
WTI原油先物は86ドル台まで上昇しました。トランプ大統領がイランを支援する国に対して厳しい経済措置を取る姿勢を示したことで、中東からの供給不安が再び強まりました。ホルムズ海峡を巡る緊張やエネルギー施設への攻撃も続いており、原油価格の高止まりはガソリン、輸送、製造コストを通じて米国の物価を押し上げる可能性があります。株式市場にとっては、景気減速とインフレが同時に進む展開が最も厄介です。(Reuters:08/20) - FRB議事要旨でインフレ警戒、追加利上げ論も残る
7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨では、複数の参加者がインフレ率が2%目標を上回り続ける場合には追加利上げも選択肢になるとの認識を示していました。市場では利下げよりも高金利の長期化を改めて警戒する動きとなっています。原油高と堅調な雇用指標が重なる現在の環境では、FRBが急いで金融緩和へ転じる理由は乏しく、株価の評価水準には厳しい条件が続きそうです。(WSJ:08/20) - 米財務省の国債買い戻し拡大でも金利低下は一時的
米財務省は長期国債市場の安定化を狙い、9月から10~30年債の買い戻し上限を1回当たり20億ドルから40億ドルへ引き上げる方針を示しました。前日はこの発表で30年国債利回りが大きく低下しましたが、20日には再び上昇しています。米国の巨額財政赤字、AIデータセンター投資に伴う企業の資金需要など構造的な債券供給圧力は残っており、小規模な買い戻しだけで長期金利の上昇傾向を変えるのは難しいという市場の評価が表れています。(WSJ:08/20) - 製造業と雇用指標は予想以上に強い
8月のフィラデルフィア連銀製造業景気指数は47.4と市場予想24.1を大幅に上回り、雇用指数も27.9へ上昇しました。新規失業保険申請件数も20.6万件と予想を下回り、米国景気と労働市場の底堅さが確認されています。景気後退懸念を和らげる内容ですが、現在の市場では「景気が強い=株高」と単純にはなりません。景気が強ければFRBが金利を高く維持できるため、債券利回り上昇を通じて株価には逆方向に作用します。(Reuters:08/20) - Deere好決算、AI投資の恩恵が建設分野にも波及
DeereはEPSが5.10ドル、売上高が126.1億ドルとなり、ともに市場予想を上回りました。株価は+6.94%と大幅に上昇しています。農業機械需要には弱さが残る一方、建設・林業部門の伸びが業績を押し上げました。私はデータセンター建設に携わった経験がありますが、AI投資にはGPUだけでなく造成、建物、電力設備、冷却設備まで必要です。AI関連投資が半導体から工業・産業へ広がっていることを示す決算として注目しています。(Reuters:08/20) - Coinbase上昇、暗号資産規制の明確化期待
Coinbaseは+7.58%と大幅に上昇しました。トランプ大統領が議会に対し、デジタル資産の規制区分を明確にするCLARITY法案の成立を求めたことが背景です。暗号資産市場では規制の不透明さが長年の大きなリスクでしたが、制度整備が進めば機関投資家の参入や取引量の増加につながる可能性があります。一方、暗号資産関連株は値動きが非常に大きいため、S&P500全体の長期投資とは分けて考える必要があると見ています。(Reuters:08/20) - AI関連は全面安ではなく、銘柄選別が続く
NASDAQは1%下落しましたが、AI関連株がすべて売られたわけではありません。MarvellやLumentumなど、AIデータセンター向け通信や専用半導体に関係する企業は上昇しました。一方、高い株価評価を受けているソフトウェアや成長株には売りが出ています。現在のAI相場は「AIという名前だけで買われる」段階から、受注、利益率、現金収入、設備投資負担を確認する段階へ移っているように感じます。(Reuters:08/20) - 米国の政府債務が40兆ドルを突破
米国の政府債務残高が40兆ドルを超えました。直接1日の株価を動かす材料ではありませんが、長期金利が高止まりしている背景として無視できません。財政赤字が拡大すれば国債発行額も増え、投資家がより高い利回りを求める可能性があります。さらにAIデータセンター、防衛、国内製造回帰など民間・政府双方で巨額の資金需要があります。長期投資家としては、企業利益だけでなく「米国全体の資金調達コスト」が今後の重要テーマになると考えています。(WSJ:08/20)
経済指標発表予定
以下の経済指標が発表される予定です。
主要銘柄の決算発表予定
8/21には主要銘柄の決算発表は予定されていません。
おわりに
8月20日の米国株市場は、原油高、米長期金利の上昇、Walmart決算をきっかけとした個人消費への警戒が重なり、主要3指数がそろって下落しました。一方で、DeereやMarvell、Lumentumなど個別材料のある銘柄には買いも入り、全面的に投資家が弱気になったというより、企業ごとの選別が強まった一日だったと感じています。
長期投資では、1日の下落に反応して投資方針を変えるより、企業利益、金利、インフレ、景気の流れを落ち着いて見続けることが大切です。私も日々の値動きには一喜一憂せず、市場に居続けることを基本にしています。
毎朝こうして市場を整理し、読んでいただけることに感謝しています。本ブログが皆さまの米国株市場を考える材料になれば嬉しいです。
それでは、今日も一日、明るく元気に笑顔で過ごしましょう。
ご参考になりましたらこちらから応援いただけると嬉しいです。
おことわり
投資は自己責任にてお願いします。
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図表のレファレンス
- S&P500ヒートマップ: finviz
- 主要3指数とドル円: Yahoo!Finance米国版 をカスタマイズ
- セクター別騰落率: finviz
- 経済指標結果/予定: investing.com日本語版
- 決算発表結果/予定: investing.com日本語版
- 主要指数の動き : Yahoo!Finance米国版 をカスタマイズ
- 自分の米ドル建ポートフォリオ: Yahoo!Finance米国版 をカスタマイズ
著者プロフィール
室井一夫(Kazuo Muroi)
Muroi Universal Research on Investment LLC 代表社員
一級建築士・建築1級施工管理技士・工学修士
Facebookグループ「米国株_投資の部屋」管理人(約4.7万人)
米国株式市場と経済動向に関する情報を毎日発信しています。
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