室井のマーケット視点
8月17日の米国株式市場は、S&P500が-0.52%、Dow30が-0.51%、NASDAQが-0.32%となりました。米国とイランの和平協議が行き詰まり、WTI原油先物が+2.73%、米10年国債利回りも4.724%へ上昇したため、株式市場には売りが広がりました。
とはいえ、AI関連が一様に売られたわけではありません。Sandisk、Coherent、Applied Materialsなど、メモリー、光通信、半導体製造装置は大きく上昇しました。私には、資金がAIという大きなくくりではなく、実際に需要が確認できる設備や部品へ移っているように見えます。
S&P500企業の決算は大半が一巡しましたが、大手小売企業やNVIDIAの発表は残っています。8月後半から9月7日のレーバーデーまでは、休暇を取る市場関係者が増え、例年は出来高が少なくなりやすい時期です。この日も薄商いだったと報じられており、少ない注文で株価が動きやすい状態でした。ただし、出来高の減少だけで個人投資家の割合が高かったとは断定できません。機関投資家の自動売買も常に動いています。それでも、話題性の高いAI関連へ買いが集中した動きには、個人投資家の影響も一定程度あった可能性があります。
夏枯れ相場では日々の値動きを深追いせず、長期投資家として落ち着いて市場に居続けたいと思います。
S&P500ヒートマップ
5%以上上昇したS&P500構成銘柄
- SNDK:Sandisk Corporation +8.88%
データセンター向けストレージ需要の拡大期待から大幅に上昇しました。生成AIの普及によって保存・処理するデータ量が急増しており、NAND型フラッシュメモリー(電源を切ってもデータを保持できる半導体メモリー)の需給改善が意識されました。 - COHR:Coherent Corp. +7.79%
AIデータセンター向け光通信部品の需要拡大期待から買われました。大量のデータを高速で送受信するには光通信設備が不可欠です。AI投資の恩恵がGPUだけでなく、通信網を構成する部品メーカーにも広がっていることを示す上昇です。 - FIX:Comfort Systems USA +6.04%
データセンター建設に伴う空調・冷却設備の需要拡大が評価されました。AIサーバーは大量の熱を発生させるため、高性能な冷却設備が欠かせません。建設工事の受注拡大と利益成長への期待から、AIインフラ関連銘柄として買いが続いています。 - TER:Teradyne +5.81%
半導体試験装置の需要拡大期待から上昇しました。AI向け半導体の高性能化に伴い、製造後の性能や品質を確認する検査工程の重要性が増しています。半導体メーカーの設備投資が継続するとの見方が、同社株への買いにつながりました。 - AMAT:Applied Materials +5.55%
AI向け半導体や先端メモリーへの設備投資が続くとの期待から大きく上昇しました。同社は半導体製造装置の世界的大手です。市場では、AI投資の拡大が半導体メーカーだけでなく、製造装置企業の受注にも長期間波及するとの見方が強まりました。 - MRVL:Marvell Technology +5.54%
AIデータセンター向け半導体と高速通信製品の成長期待から買われました。同社はデータを効率よく送受信するための半導体を提供しています。生成AI向け設備投資の拡大により、独自設計半導体や通信関連製品の需要増加が期待されています。 - WDC:Western Digital Corporation +5.35%
データ保存需要の増加と記憶装置市場の需給改善期待から上昇しました。生成AIの利用拡大では、計算能力だけでなく膨大なデータを保存する設備も必要です。Sandiskとそろって上昇しており、資金がメモリー・ストレージ関連株へ向かったことが分かります。 - PWR:Quanta Services +5.33%
データセンター増設に伴う送電網と電力設備への投資拡大が評価されました。同社は送電線や電力インフラの建設・保守を手掛けています。AIの普及による電力需要の急増を背景に、電力供給を支える企業として成長期待が高まりました。
5%以上下落したS&P500構成銘柄
- CVNA:Carvana -7.25%
中古車販売大手のCarvanaは大幅に下落しました。直近12カ月のEPS成長率は+169.88%と高いものの、これまでの株価上昇を受けて利益確定売りが広がりました。自動車ローン金利の高止まりや、中古車需要の先行きも警戒されたと考えられます。 - CHTR:Charter Communications -6.59%
ケーブルテレビ・通信大手のCharter Communicationsは大きく売られました。動画配信サービスとの競争や、固定回線の契約者数を巡る懸念が重荷となっています。低いPER(株価収益率)は割安感を示す一方、事業の成長力に対する市場の慎重な見方が続いています。 - STZ:Constellation Brands -6.19%
ビールやワインなどを手掛けるConstellation Brandsは大幅安となりました。米国消費者の節約志向や酒類需要の鈍化に対する警戒が強まりました。景気の先行きに不透明感が残る中、生活必需品に近い企業でも、販売数量や利益率への懸念から売られる展開となりました。 - ALGN:Align Technology -5.60%
歯列矯正装置「インビザライン」を展開するAlign Technologyは下落しました。直近12カ月のEPS成長率が-2.76%となっており、利益成長の鈍化が意識されました。歯列矯正は患者の自己負担が大きいため、消費環境の悪化や治療需要の減速に影響されやすい面があります。 - NOW:ServiceNow -5.08%
企業向け業務管理ソフトウェア大手のServiceNowは5%を超えて下落しました。AI機能による長期的な成長期待は続いていますが、PERは73.54倍と高く、市場の期待が株価へ大きく織り込まれています。高PER銘柄を中心とした利益確定売りが下落につながりました。
セクター別騰落率
市場全体では11セクター中4セクターが上昇し、7セクターが下落しました。原油価格の急騰を受けてエネルギー(Energy)が+0.85%で首位となり、素材(Basic Materials)と工業・産業(Industrials)にも買いが入りました。一方、米10年国債利回りの上昇と消費への警戒から、通信サービスと生活必需品が大きく下落しました。先端技術は+0.01%にとどまり、半導体株の上昇とソフトウェア株の下落が打ち消し合いました。
- 通信サービス(Communication Services) -1.40%
Charter Communicationsが-6.59%と大きく下落したほか、大型通信・インターネット関連株にも売りが広がりました。AI関連でも光通信部品は上昇しましたが、広告やメディア、通信サービスへは資金が向かわず、セクター内の明暗が鮮明になりました。 - 生活必需品(Consumer Defensive) -1.49%
生活必需品は全11セクターで最大の下落となりました。酒類大手Constellation Brandsが-6.19%となったほか、米国消費の減速や仕入れコスト上昇への警戒から売りが広がりました。原油高は輸送費や包装費を押し上げるため、価格転嫁が難しい企業では利益率の低下が懸念されます。
主要3指数とドル円の動き
- S&P500(7,745.06、前日比-0.52%)
S&P500は7,790.68で取引を始めましたが、その後は売りが優勢となり、ほぼ安値の7,745.06で終了しました。AI・半導体関連の一部には強い買いが入ったものの、市場全体を押し上げるまでには至らず、高値圏で利益を確定する動きが広がりました。長期投資家としては、0.5%程度の下落は上昇相場の中で起こる通常の調整と見ています。 - Dow30(53,459.78、前日比-0.51%)
Dow30は53,663.11で始まり、一時53,395.23まで下落した後も戻りは限られました。景気敏感株(景気の良し悪しで業績が変わりやすい企業)や大型優良株に売りが広がり、NASDAQと比べても下落率が大きくなっています。市場の資金がAI関連の一部へ集中し、幅広い銘柄が買われる展開ではなかったことが表れています。 - NASDAQ(26,644.91、前日比-0.32%)
NASDAQは26,784.65で始まり、一時26,798.40まで上昇しましたが、終盤に売りが強まりました。Sandisk、Coherent、Applied MaterialsなどAI、メモリー、光通信、半導体製造装置関連は上昇した一方、ServiceNowなど高PER銘柄(利益に対して株価が高い銘柄)は売られました。AI関連の中でも企業を選別する相場が続いています。 - ドル円(159.4730円、前日比+0.11%)
ドル円は159.3050円で始まり、一時158.8390円まで円高方向へ動いた後、159.5970円まで反発しました。ドル全体の強さを示すドル指数が小幅に低下する中でもドル円が上昇しており、今回は全面的なドル高というより、円の弱さが表れた動きと考えられます。米国株を円建てで保有する投資家には資産評価額を押し上げる方向ですが、160円付近では急な反転にも注意が必要です。
原油先物・米10年国債利回り・VIX・金先物の動き
- WTI原油先物(84.65ドル、前日比+2.73%)
WTI原油先物は一時84.88ドルまで上昇しました。米国とイランの協議が進まず、ホルムズ海峡を通過する船舶が大幅に減少したことで、原油供給への不安が再び強まりました。原油高はエネルギー株には有利ですが、物価と企業コストを押し上げるため、株式市場全体には警戒材料となります。 - 米10年国債利回り(4.724%、前日比+0.60%)
米10年国債利回りは4.694%から4.724%へ上昇しました。原油高によるインフレ再燃への警戒に加え、米国の財政赤字や国債供給の増加も債券売りにつながっています。長期金利の上昇は、将来の利益への期待が大きい高PER銘柄に不利となりやすく、主要3指数の下落にも影響しました。 - VIX指数(15.22、前日比+6.81%)
VIX指数は15.22まで上昇しました。原油高、米長期金利の上昇、中東情勢への不安が重なり、投資家の警戒感がやや強まりました。ただし、VIXは一般に警戒水準とされる20を下回っており、市場が混乱状態に入ったわけではありません。現状は利益確定を伴う調整局面と見るのが自然です。 - 金先物(4,476.50ドル、前日比+0.88%)
金先物は一時4,486.50ドルまで上昇しました。米国とイランの対立や原油輸送への不安から、安全資産としての金に買いが入りました。米長期金利の上昇は通常、利息を生まない金には不利ですが、それを上回る地政学リスクとインフレへの備えが金価格を押し上げたと考えられます。
私のポートフォリオ +0.20%(前日比)
私のポートフォリオは前日比+0.20%となりました。S&P500連動型のETFと投資信託は-0.11%から-0.35%、FANG+も-0.36%となりましたが、NASDAQ100連動ETFが+0.41%となり、全体を押し上げました。AI・半導体関連の一部には買いが続く一方、ソフトウェア株や幅広い大型株には売りが出ており、同じ米国株でも値動きに差が見られます。原油高と米長期金利の上昇もあり、積極的に買い上がる雰囲気ではありませんでした。
私はS&P500を中心にETFで分散していますので、1日の小さな値動きには一喜一憂せず、米国企業全体の利益成長を見ながら運用を続けます。
経済指標発表結果
- ニューヨーク連銀製造業景気指数(20.60)
8月のニューヨーク連銀製造業景気指数は20.60となり、市場予想の10.60と前回の15.60を大きく上回りました。0を上回ると製造業の拡大を示すため、米国景気の底堅さが確認された形です。一方、景気の強さはFRBが金融緩和へ転じにくい要因でもあり、米10年国債利回りの上昇と高PER株への売りにつながりました。 - NAHB住宅市場指数(35)
住宅建設業者の景況感を示すNAHB住宅市場指数は35となり、市場予想の33と前回の34を上回りました。ただし、好不況の境目となる50を引き続き下回っており、高い住宅ローン金利が住宅需要を抑えている状況に大きな変化はありません。予想を上回った点は安心材料ですが、住宅市場の本格回復を示すほどの強さではありませんでした。 - ネット長期TICフロー(1,727億ドル)
米国への長期資金の流入額を示すネット長期TICフローは1,727億ドルとなり、前回の2,312億ドルから減少しました。TICフロー(海外から米国証券へ出入りする資金)は、米国債や米国株に対する海外投資家の需要を測る指標です。流入は続いているものの勢いは鈍化しており、米国の長期金利が上がりやすい環境を示しています。 - 対米財務省証券投資(68億ドル)
海外投資家による米財務省証券への投資額は68億ドルとなり、前回の566億ドルから大幅に減少しました。米国債への海外需要が弱まると、国債価格の下落と利回りの上昇につながりやすくなります。この日は原油高によるインフレ懸念も重なり、米10年国債利回りは4.724%へ上昇しました。長期投資家としても金利動向を注視したい局面です。
主要銘柄の決算発表結果
- PSKY:Paramount Skydance Corporation(通信サービス(Communication Services))
添付図ではEPSが-3.05ドルで予想の-4.80ドルを上回り、売上高は2.27億ドルで予想の3.2億ドルを下回ったと表示されています。株価は通常取引で+1.33%、時間外取引は変わらずでした。同社は8月4日に第2四半期決算をすでに発表しており、その売上高は69.1億ドルでした。8月17日の公式発表は、Warner Bros. Discovery買収に関連する社債の交換・買付期限の延長です。今回のEPSと売上高は公式決算との規模が一致しないため、投資判断には使用しない方がよい数値です。
主な経済ニュース
- 米国とイランの和平協議が行き詰まり
米国が暫定停戦合意の延長を否定する中、イランは恒久和平に向けた交渉が進まなければ、防御中心から「全面的な攻勢」へ移ると警告しました。ホルムズ海峡で軍事行動が再び激しくなれば、原油供給、海上輸送、保険料に影響が及びます。地政学リスクが再び市場の中心へ戻ってきました。(Reuters:08/17) - ホルムズ海峡の供給不安で原油が急騰
米国とイランの外交交渉に進展がなく、ホルムズ海峡を通過する船舶も大幅に減少したことから、WTI原油先物は84.65ドルへ2.73%上昇しました。エネルギー株には買いが入りましたが、原油高が続けばガソリン価格や企業の輸送費が上がり、消費と企業利益の両方を圧迫します。(Reuters:08/17) - 米30年国債利回りが2007年以来の高水準
米30年国債利回りは一時5.3%台へ上昇し、2007年以来の高水準となりました。原油高によるインフレ懸念に加え、米国の財政赤字、国債発行の増加、AI設備投資に伴う企業の資金調達拡大が背景にあります。長期金利の上昇は住宅や設備投資だけでなく、高PER株の評価にも影響します。(Bloomberg:08/17) - 主要3指数がそろって下落
原油高と長期金利上昇への警戒から、S&P500は-0.52%、Dow30は-0.51%、NASDAQは-0.32%となりました。8月は市場参加者が減りやすく、少ない売買でも値動きが大きくなる傾向があります。エネルギーと半導体には買いが入ったものの、幅広い銘柄へ資金が広がる相場ではありませんでした。(Reuters:08/17) - NVIDIAがOpenAIのデータセンターを巨額支援
NVIDIAは、米オハイオ州で計画されるOpenAI向けデータセンターについて、20年間の賃借料や電力料金に最大1,050億ドルの保証を提供します。SB Energyへ15億ドルを出資し、施設にはNVIDIA製半導体が採用される予定です。需要を確保できる一方、取引先への信用供与が急拡大する点は注意が必要です。(Reuters:08/17) - AI投資に簿外の巨額負担が存在
大手テクノロジー企業9社が契約したデータセンター賃借料や半導体購入などには、貸借対照表へ十分に反映されていない巨額の将来負担があり、その規模は約3兆ドルに達するとの分析が報じられました。AI需要は強いものの、利益、現金収入、設備投資、債務を分けて見る必要があります。(WSJ:08/17) - 半導体株上昇の一方でソフトウェア株は下落
Sandisk、Coherent、Applied Materials、Marvell Technologyなど、メモリー、光通信、半導体製造装置関連が上昇しました。一方、ServiceNowなど高PERのソフトウェア株は売られました。AI投資の中心が、将来の収益期待から実際の設備需要へ移りつつあるように感じます。(Reuters:08/17) - ニューヨーク州の製造業景況感が4年ぶりの高水準
8月のニューヨーク連銀製造業景気指数は20.60となり、予想の10.60を大幅に上回りました。新規受注と出荷が増え、製造業の底堅さが確認されました。一方、仕入れ価格の上昇と納期の長期化も示されており、景気の強さとインフレ圧力が同時に存在する内容です。(WSJ:08/17) - 海外投資家による米国債購入が急減
海外投資家による米財務省証券への投資額は68億ドルとなり、前回の566億ドルから大幅に減少しました。米国債への海外需要が弱まれば、国債価格が下落し、利回りが上昇しやすくなります。米国の財政拡大が続く中、国債を誰が購入するのかは株式市場にとっても重要な問題です。(Investing.com:08/17) - 大手小売企業の決算を前に消費への警戒が強まる
市場ではHome Depot、Target、Walmartなどの決算発表を控え、米国消費の持続力を見極めようとする慎重な姿勢が強まりました。原油高は燃料費や物流費を押し上げ、家計の自由に使えるお金を減らします。生活必需品と一般消費材が下落した背景には、企業利益と個人消費への警戒があります。(Reuters:08/17)
経済指標発表予定
以下の経済指標が発表される予定です。
主要銘柄の決算発表予定
以下の主要銘柄の決算発表がなされる予定です。
おわりに
原油高と米長期金利の上昇が重なり、主要3指数はそろって下落しました。ただ、市場の中では、半導体、メモリー、光通信、冷却設備、電力工事など、AIを実際に動かすためのインフラ関連株が上昇しています。指数だけでは分からない資金の流れが見えた一日でした。
米国とイランの対立やホルムズ海峡の問題は、今後も相場を揺らす可能性があります。それでも、長期投資では短期的なニュースに振り回されず、米国企業の利益成長を見ながら市場に居続けることが大切だと私は考えています。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。それでは、今日も一日、明るく元気に笑顔で過ごしましょう。
このブログは、毎朝ひとりで市場情報を整理しながら更新しています。内容がお役に立ちましたら、こちらから応援いただけると嬉しいです。
おことわり
投資は自己責任にてお願いします。
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図表のレファレンス
- S&P500ヒートマップ: finviz
- 主要3指数とドル円: Yahoo!Finance米国版 をカスタマイズ
- セクター別騰落率: finviz
- 経済指標結果/予定: investing.com日本語版
- 決算発表結果/予定: investing.com日本語版
- 主要指数の動き : Yahoo!Finance米国版 をカスタマイズ
- 自分の米ドル建ポートフォリオ: Yahoo!Finance米国版 をカスタマイズ
著者プロフィール
室井一夫(Kazuo Muroi)
Muroi Universal Research on Investment LLC 代表社員
一級建築士・建築1級施工管理技士・工学修士
Facebookグループ「米国株_投資の部屋」管理人(約4.7万人)
米国株式市場と経済動向に関する情報を毎日発信しています。
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