■ 本日の要点(数字で見る10月16日)
- TSMC(台湾積体電路製造)は2026年の売上成長見通しを米ドル建てで約44%に引き上げ、第4四半期の売上高を523億〜543億ドルと見込みました。
- 韓国のKOSPIは16日に113.83ポイント(2.05%)上昇して5,668.05で終えましたが、前日の下げ幅454.59ポイントのうち取り戻したのは約25%にとどまります。
- AI向け計算設備を貸し出すCoreWeave(コアウィーブ)の社債利回りが16%超に上昇し、AI投資を支える「借金」の危うさが意識されています。
- Barclays(バークレイズ、英国の大手銀行)がDell・HPE・NetAppの投資判断を引き下げました。Dellの目標株価574ドルは前日終値からわずか0.3%高の水準です。
- Apple(アップル)とMeta(メタ)が、8,160億パラメータ(AIの規模を表す数字)のAIをMac Studioを複数台つないで手元で動かす取り組みを発表しました。
■ TSMCの決算内容を数字で読む:2ナノが売上の8%に、通期成長見通しは約44%へ
前日の記事では「最高益」という見出しを取り上げましたが、決算資料(6-K、米国に上場する外国企業が提出する報告書)には、投資家が確認すべき数字がさらに含まれています。2026年第3四半期(7〜9月)の売上高は1兆4,942億台湾ドル(約467億ドル)、純利益は7,631億台湾ドル、粗利益率(売上から原価を引いた利益の割合)は66.4%、営業利益率は58.7%、純利益率は51.1%でした(SEC提出資料 10/15)。1株当たり利益(EPS)は29.43台湾ドルで、前年同期の17.44台湾ドルから約69%増えました(Focus Taiwan 10/15)。
今回のポイントは、最先端の「2ナノ」(回路の線幅が2億分の1メートル級という最新の製造技術)が売上の8%を占めたことです。第2四半期は3%でしたので、1四半期で5ポイント増えています。3ナノは33%、5ナノは28%、7ナノは10%で、7ナノ以下の先端技術の合計は79%でした(SEC提出資料 10/15)。
見通しも上方修正されました。2026年通期の売上成長率は米ドルベースで約44%と、7月時点の「40%超」から引き上げられています。第4四半期の売上高は523億〜543億ドルで、中間値の533億ドルは第3四半期の46.72億ドルより約14%多い計算です。粗利益率は65〜67%、営業利益率は56.5〜58.5%の見込みで、利益率はほぼ横ばいを維持する計画です。設備投資は600億〜640億ドルに据え置かれ、2026〜2028年は過去3年を上回る水準になる見通しです(Focus Taiwan 10/15)。魏哲家会長は、先進パッケージング技術「CoWoS」(複数のチップを1つにまとめて性能を高める組み立て技術)が顧客の第一選択だと述べています。
株価の動きは決算の好調さとは別です。米国預託証券(ADR、海外企業の株を米国で売買できるようにした証券)のTSM(NYSE)は、16日の米国時間早朝の時点で421.67ドルでした。52週高値の487.47ドルより約13%低い水準です。決算が予想を上回ったにもかかわらず、市場の関心は「業績」から「AI投資の資金が続くか」へ移っています(CNBC 10/15)。日本の投資家は、米国市場でTSM(TSMC ADR)として購入できます。
■ アジア株は反発したが、戻りは下げ幅の4分の1にとどまる
日本時間16日のアジア市場は、前日の急落から反発しました。韓国のKOSPIは113.83ポイント高の5,668.05で終え、場中の高値は5,809.94でした。ただし、前日の下落幅は454.59ポイントでしたので、取り戻した割合は約25.0%です。10月2日の終値7,003.74と比べると、依然として約19%低い水準にあります。外国人投資家は9営業日ぶりに1,721億ウォンの買い越しに転じましたが、前日の売り越し約3兆6,000億ウォンに比べるとごく一部です(Aju Press 10/16)。
日経平均株価は1.4%高の65,324.29円で終えました。前日は4.9%安で、前日終値は64,425.95円でした。逆算した前々日終値は約67,745円ですので、下げ幅約3,320円のうち約898円、割合にして約27%を戻した計算です(Aju Press 10/16)。台湾の加権指数(TAIEX)は小幅高にとどまり、台湾市場では外国人の売り越しが木曜に過去最大の99億ドルに達したとMUFG(三菱UFJ銀行)が指摘しています(Reuters配信(MarketScreener) 10/16)。
個別では、メモリー半導体(データを記憶する部品)のSK hynix(韓国取引所上場、日本・米国では直接購入できません)が0.8%高の127万2,000ウォン、サムスン電子が2.6%高の21万5,500ウォンでした。日本ではキオクシアホールディングス(285A)が上昇率の上位に入ったとAP通信が伝えています(AP(Kuwait Times) 10/16)。反発の理由として、AP通信はNVIDIAのジェンスン・フアンCEOが「CoreWeaveの財務の強さは日々高まっている」と擁護したことを挙げています。つまり、今回の値動きは新しい技術の発表ではなく、「AIを支える資金への不安が一時的に和らいだ」ことが主因です。
■ CoreWeave:AI設備の「借金」が16%の金利を要求される
CoreWeave(NASDAQ:CRWV)は、NVIDIAの半導体を大量に買い、それをAI開発企業に貸し出す事業を営んでいます。この会社の株価は水曜に15%超下落し、2031年満期の社債(企業が投資家から借りるお金の証書)の利回りは16%超に上昇しました。利回りが高いということは、貸す側が「返済されないかもしれない」と見ている度合いが高い、という意味です(Bloomberg(BNN) 10/15)。
同記事によれば、債務の総額は約500億ドル、債務不履行(返済できなくなること)に備える保険の料金(CDS、クレジット・デフォルト・スワップ)は約1,000ベーシスポイント(10%)に上昇しました。これは5年以内の不履行確率が約63%と市場が見ている水準で、1年前の約30%から倍増しています。ただし、これは保険料から逆算した「市場の見方」であり、実際に不履行になることを示すものではありません。参考までに、100億ドルを借りる場合、金利16%なら年16億ドル、8%なら年8億ドルの利息がかかります。利回りの上昇がそのまま利益を圧迫するため、受注残(これから売上になる契約)が大きくても安心はできません。
設備投資も大きく、8月には年間計画を40億ドル引き上げて350億〜390億ドルとしました。アナリスト予想では、今年の売上高は約130億ドル、損失は21.3億ドルです。業界全体でも、フィラデルフィア半導体指数は6営業日で11.6%下がり、1.6兆ドル超の時価総額が消えました。調査会社Gartner(ガートナー)は、ネオクラウド(AI向けに特化した新興のクラウド事業者)の約80%が2030年までに事業を停止する可能性があり、3.5兆ドル超のAI投資が価値の減損リスクにさらされるとしています(Bloomberg(BNN) 10/15)。これはあくまで予測の一つです。
CoreWeaveは木曜に寄り付き前で約6%下落していましたが、フアンCEOの擁護発言を受けて、AP通信によれば約6%上昇に転じました(AP(Kuwait Times) 10/16)。NVIDIA(NVDA)は同社を支援する立場にあるため、CoreWeaveの信用不安は、NVIDIAの半導体の売り先の資金繰りという点で、間接的に影響する可能性があります。
■ Barclaysが米サーバー3社を格下げ:「AIの伸びは、メモリー価格の上昇による見かけ」との指摘
Barclaysのアナリスト、ティム・ロング氏は、Dell Technologies(DELL)、Hewlett Packard Enterprise(HPE)、NetApp(NTAP)の3社の投資判断を「オーバーウェイト(買い推奨)」から「イコールウェイト(中立)」へ引き下げました。目標株価はDellが603ドルから574ドル、HPEが83ドルから77ドルに下がり、NetAppは219ドルで据え置かれました。理由は、サーバー収入の伸びの一部が、メモリーなど部品価格の上昇によるもので、AI需要による本格的な成長の転換点はまだ確認できない、というものです(Stocktwits 10/14)。
株価の反応は大きく、Dellは当日に11.27%下落して約507.93ドルとなりました。下落前の水準は約572.47ドルで、新しい目標株価574ドルは下落前の水準に対して0.3%高にすぎません。株価は今年、約273%上昇していたため、アナリストは「すでに期待が織り込まれている」と見たことになります。HPEは当日に約5%下落して65.45ドルでした(247Wall St. 10/14)。なお、同記事は、Dellの下落率を取引途中で約8%と伝えており、終値ベースの11.27%とは時点が異なります。
見方を整理しますと、この格下げは「AI需要が消えた」という内容ではなく、「株価が先に上がりすぎた」という評価の議論です。企業向けのAI注文が目標の規模に届くかどうかが、次の焦点になります。これは1社のアナリスト意見であり、他社の見方は異なる場合があります。
■ ウォーシュFRB議長の発言と金利:AIは「政策運営のやり方」を変えるか
16日(日本時間12時30分ごろ)に、ケビン・ウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長が、タイ・バンコクで開かれたIMF(国際通貨基金)の年次総会でゲオルギエバ専務理事と対談しました。Bloombergは「ウォーシュ議長:AIは金融政策の運営を変える」との見出しで報じています(Bloomberg 10/16)。発言の詳細な内容は、本稿の執筆時点で確認できた範囲が限られるため、結論の断定は避けます。
市場が注目する背景は、物価と利上げです。9月の消費者物価指数(CPI)は前年比3.7%(予想3.6%)、変動の大きい食品・エネルギーを除くコアは2.6%(予想2.5%)でした。FRBは前回のFOMC(連邦公開市場委員会)で、約3年ぶりに政策金利を引き上げています。10月FOMCでの追加利上げの確率は、CPI発表前の約20%から一時55%に上がり、その後は約40%となっています。FOMCは10月27〜28日に開かれ、10月17日から政策担当者の発言が制限される期間(ブラックアウト期間)に入ります(Seoul Economic Daily 10/16)。
AI関連株への影響は、金利の高さと関係します。将来の利益で評価される成長株は、金利が上がると今の価値が低く計算されるためです。米10年国債利回りは約5.1%の水準で、10月14日のCPI発表後に上昇しました(出所により5.06%と5.09%の差があります)。この水準は、AI設備に必要な資金を借りる企業にとっても、借入コストが高い状態が続くことを意味します。
■ ボルボとNVIDIAが提携拡大:次世代車で「目を離せる」運転を段階導入
10月15日、スウェーデンの自動車メーカーVolvo Cars(ボルボ・カーズ)とNVIDIAは、自動運転での提携を拡大すると発表しました。提携は2017年に始まっており、今回は高速道路、市街地、駐車場を含む「ドアからドア」の運転を目指します。運転者が「目を離す」「注意を払わなくてよい」段階を、順に導入する計画です。使う技術は、NVIDIA Hyperion(センサーと計算機の設計基盤)、Halos OS(安全性を重視した制御ソフト)、Alpamayo Stack(運転支援のソフト群)です(NVIDIA 10/15)。
確認できなかった点も明記します。具体的なチップの型番、性能の数値、対象車種、発売時期は発表に含まれていません。そのため、売上への影響を数字で見積もることは現時点では困難です。ボルボは2025年に71万台超を販売し、電動車比率は46%でした。NVIDIAにとっては、データセンター向けに続く、車載(自動車に積む)向けの需要の広がりを示す材料です。Volvo Carsはストックホルム取引所に上場しており、日本・米国の市場では直接購入できません。関連銘柄としては、NVIDIA(NVDA)が米国で購入できます。
■ AppleとMeta:8,160億パラメータのAIを、Mac Studio複数台で手元で動かす
AppleとMetaは、Metaの大規模AI「Muse Spark Open」を、高性能パソコンのMac Studioを複数台つないで手元で動かせるようにすると発表しました。モデルの大きさは、総パラメータ数(AIの内部にある調整用の数値の数)が8,160億(816B)、1回の処理で実際に使うのが420億で、全体の約5.1%です。圧縮した重みだけで約493GBあり、必要な構成は、M5 Ultra搭載のMac Studio(メモリ256GB)を4台、または512GB版を2台です。4台構成はすでに利用でき、512GB版の出荷は10月下旬以降の予定です(AppleInsider 10/15)。
技術面では、機種間をThunderbolt 5(高速のケーブル規格)でつなぎ、RDMA(CPUをほぼ介さずメモリ同士でデータをやり取りする方式)で転送し、Appleのオープンソースの枠組みMLXで動かします。Appleの測定では、4台で8,192トークン(AIが扱う文字の単位)の入力に対し、毎秒36トークン超の速度です。M5 Ultraの開始価格は5,499ドルで、4台で最低でも約2.2万ドルとなり、メモリを増やすとさらに上がります。実際の速度は作業内容により変わります(AppleInsider 10/15)。
意味は、クラウド(インターネット上のデータセンター)を使わず、社内や個人の手元でAIを動かす選択肢が広がることです。企業にとっては、機密データを外に出さずに済む利点があります。一方で、数万ドルの初期費用が必要で、大量の利用者を同時に処理するデータセンターに置き換わるものではありません。Apple(AAPL)とMeta Platforms(META)はいずれも米国で購入できる銘柄です(MacDailyNews 10/15)。
■ 台湾が米テキサスに最大40億ドルの産業団地を検討:AIサプライチェーンの米国移転
Bloombergは10月16日、台湾がAI機器の供給網を米国に近づけるため、テキサス州に最大40億ドル規模の産業団地を整備する案を報じました。AIサーバーや半導体に関わる台湾企業を、米国の生産拠点の近くに集める狙いで、最初の団地の費用が最大40億ドルとされています(Bloomberg 10/16)。記事の全文は有料のため、企業名・時期・資金の詳細は確認できていません。計画段階の情報であり、決定事項ではない点にご注意ください。
背景には、すでに進んでいる台湾企業のテキサス進出があります。例えば、Wistron(緯創)はテキサス州で7億ドルの工場を開設し、NVIDIAのAI用サーバーを組み立てています(Taiwan Plus 7/22)。ここから見えるのは、AIの設備が「作る場所」の競争になっていることです。米国での生産が増えると、台湾の部品メーカーも米国に出る必要が生じ、投資額は膨らみます。
■ 5つの話題をつなぐ見方:「技術」「需要」「資金」の3段階で分けて確認する
本日の話題は別々に見えますが、AI関連の投資を「技術が実現できるか」「需要が実際にあるか」「資金が続くか」の3段階に分けると整理できます。技術の段階は、TSMCの2ナノ(売上の8%)や、AppleとMetaの8,160億パラメータの動作確認が当たります。実際に出荷や利用ができているため、確認の度合いは高い状態です。需要の段階は、TSMCの第4四半期見通し523億〜543億ドル(前期比約14%増)が根拠で、顧客からの注文を見込んだ数字です。ただし、Barclaysが指摘するように、サーバー収入の一部がメモリー価格の上昇によるものであれば、AIそのものの需要の強さとは分けて見る必要があります。
資金の段階は、現在もっとも不安定です。CoreWeaveの社債利回り16%超、債務約500億ドル、FRBの利上げ観測(10月FOMCの追加利上げ確率が約40%)は、借金で設備を増やす事業ほど不利になる要因です。逆に、TSMCのように利益率が高く、純利益率51.1%を確保している企業は、自己資金で設備投資(600億〜640億ドル)をまかなえる余力があります。同じAI関連でも、「自己資金で動ける会社」と「借金に頼る会社」では、金利上昇への強さが違います。決算書では、営業利益率、有利子負債(利息を払って借りているお金)の額、受注残の3つを並べて確認すると、違いが数字で分かります。
ボルボとNVIDIAの提携や、台湾のテキサス構想のように、発売時期や金額が示されていない案件は、段階としては「計画」にあたります。発表と実際の売上の間には時間差があるため、本レポートでは、確認できた数字と、確認できなかった項目を分けて記載しています。
■ 今夜の米国市場で確認したい3点
- CoreWeave(CRWV)の社債利回りが16%台から下がるか。フアン氏の擁護後の水準が、信用不安の落ち着きを測る目安になります。
- TSM(TSMC ADR)が421ドル前後から、52週高値487.47ドルとの差(約13%)をどこまで縮めるか。
- 米10年国債利回りの約5.1%と、10月27〜28日のFOMCに向けた利上げ確率(約40%)の変化です。
■ まとめ
本日の主題は、「技術の進歩」と「それを支える資金」のずれです。TSMCは2ナノを売上の8%まで伸ばし、通期見通しを約44%成長へ引き上げました。技術と需要は強いままです。一方で、CoreWeaveの社債利回り16%超、Dellの目標株価が前日終値より0.3%高にとどまることは、AI投資の「値段」を市場が厳しく見直していることを示します。KOSPIが下落幅の約25%、日経平均が約27%しか戻していない点も、まだ不安が残ることを示しています。個別の技術では、ボルボとNVIDIAの運転支援、AppleとMetaの手元で動くAI、台湾のテキサス案が、AIの用途と生産地の広がりを示す動きです。いずれも、本稿は情報の整理であり、売買の推奨ではありません。
参考記事:
・SEC提出資料(TSMC 6-K) 10/15
・Focus Taiwan 10/15
・CNBC 10/15
・Aju Press 10/16
・AP(Kuwait Times) 10/16
・Reuters配信(MarketScreener) 10/16
・Bloomberg(BNN) 10/15
・Stocktwits 10/14
・247Wall St. 10/14
・Seoul Economic Daily 10/16
・Bloomberg 10/16(ウォーシュ議長)
・NVIDIA 10/15
・AppleInsider 10/15
・MacDailyNews 10/15
・Bloomberg 10/16(台湾テキサス)