9月16日 地政学的リスク

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9月16日 地政学的リスク

調査時点:2026年9月16日午前6時(日本時間)

本日の結論

最大のリスクは、中東情勢の悪化による原油供給の縮小です。ホルムズ海峡の大型商船通航は、開戦前の1日約125隻から4隻まで減少しました。さらに、サウジアラビアがホルムズ海峡を迂回して原油を輸送していた東西パイプラインも攻撃で停止しています。

ブレント原油は108.75ドル、WTI原油は105.83ドルまで上昇しました。原油高が米国のインフレと長期金利を押し上げ、株式市場全体を圧迫する段階に入っています。

1.最重要リスク 中東の原油供給危機

9月15日のホルムズ海峡では、確認された大型商船の通航が4隻にとどまりました。前日は10隻、米国とイランの戦争が始まる前は1日約125隻でした。

確認された4隻のうち、原油タンカー2隻はいずれも空荷でした。船舶自動識別装置を切って通航した船がある可能性はありますが、実際の原油輸送量が大幅に減っていることは明らかです。

さらに、サウジアラビアが原油を紅海側のヤンブー港へ運ぶ全長約1,200キロメートルの東西パイプラインが、イエメンのフーシ派による攻撃を受けて停止しました。ヤンブー港での原油積み込みも中断され、一部の欧州向け9月後半積み原油がキャンセルされています。

このパイプライン停止によって、世界の原油供給量の最大4%が影響を受ける可能性があります。修復期間については「数日」から「8週間」まで予測が分かれており、現時点では不確実性が非常に大きい状態です。

ブレント原油は前日比2.9%上昇して108.75ドル、WTI原油は4.38%上昇して105.83ドルとなりました。ゴールドマン・サックスは、供給障害が続いた場合、ブレント原油が120ドルを超える可能性を指摘しています。

(Reuters 9/15)ホルムズ海峡の通航状況

(Reuters 9/15)サウジアラビアの供給障害と原油価格

2.米国経済への影響 原油高、利上げ、戦費の三重負担

米国の10年国債利回りは一時5.041%まで上昇し、2007年以来の高水準となりました。市場は9月16日の連邦公開市場委員会で、0.25%の利上げが行われる確率を94.5%まで織り込んでいます。

9月15日の米国株式市場は、ダウ平均が0.63%安、S&P500が0.45%安、ナスダック総合が0.78%安でした。エネルギーセクターは2.3%上昇しましたが、それ以外の大半の業種は原油高と金利上昇に圧迫されました。

指標 9月15日 意味
ブレント原油 108.75ドル 世界的な輸送費・製造費上昇
WTI原油 105.83ドル 米国のガソリン・物流費上昇
米10年国債利回り 一時5.041% 株式の評価額を押し下げる要因
FRB利上げ確率 94.5% 景気よりインフレ抑制を優先

米議会予算局によると、イラン戦争の米国側費用は8月1日までに380億ドルに達し、今後も毎月20億~30億ドル増える見通しです。

ミサイル迎撃弾などの在庫回復には最大5年を要し、戦争によるエネルギー供給の混乱は2027年1~3月期の米国インフレ率を0.5ポイント押し上げると試算されています。

これは単なる軍事費の問題ではありません。原油高、財政赤字拡大、国債利回り上昇、政策金利上昇が同時進行するため、米国株式市場全体への影響があります。

(Reuters 9/15)イラン戦争の費用と米国の弾薬不足

(Reuters 9/15)米国株と金利への影響

3.日本経済への影響 原油高と円安が重なる危険

日本は原油輸入の約95%を中東に依存しています。このため、ホルムズ海峡とサウジアラビアの迂回ルートが同時に機能不全になることは、米国や欧州よりも深刻です。

原油価格が100ドルを超えた状態が続けば、電気料金、ガス料金、ガソリン、航空運賃、宅配料金、化学製品、食料品へ段階的に波及します。

さらにドル高・円安が進めば、日本企業が支払う円換算の原油価格は一段と上昇します。原油価格の上昇率と円安率が重なるためです。

今回の原油高は需要拡大ではなく、供給制約によるものです。したがって、日銀が利上げしても原油供給は増えません。利上げによる個人消費と設備投資の減速だけが先行すれば、日本経済は物価高と景気減速が同時に起こるスタグフレーション(物価が上がる一方で景気が悪化する状態)に近づきます。

4.ロシア・ウクライナ エネルギー停戦は事実上機能せず

トランプ大統領は、ロシアとウクライナがエネルギー施設への攻撃停止で合意したと発表しました。しかし、9月15日も双方の攻撃は継続しました。

ロシアは約200機のドローンでウクライナを攻撃し、キーウのガソリンスタンドや港湾・エネルギー施設が被害を受けました。ウクライナもロシアのシズラニ製油所と、タガンログ、オリョールのドローン関連施設を攻撃したと発表しています。

ロシアの主要な軽油生産製油所6カ所のうち、3カ所が9月に大幅な減産または操業停止に追い込まれたと推計されています。中東だけでなくロシアの石油製品供給も減るため、世界の軽油価格に上昇圧力がかかります。

(Reuters 9/15)ロシアとウクライナのエネルギー施設攻撃

5.NATO東部・バルト海 偶発的衝突の危険が上昇

NATO戦闘機は、ベラルーシ方面からリトアニア領空へ侵入したとみられるドローンを撃墜しました。リトアニアでこのような迎撃が行われたのは初めてと報じられています。

また、デンマークは、国際水域でロシア艦艇を監視していた軍用ヘリコプターに対し、ロシアのフリゲート艦が照明弾を発射したと主張しました。ロシア側は逆に、デンマーク軍ヘリコプターが危険な接近をしたと抗議しています。

直ちにNATOとロシアの軍事衝突につながる状況ではありません。しかし、ドローンの領空侵入、航空機と艦艇の接近、誤認による迎撃が重なると、現場の判断が政治的危機へ発展する可能性があります。

(AP 9/15)リトアニアのドローン迎撃とバルト海情勢

(Reuters 9/15)ロシアとデンマークの相互非難

6.中国 技術安保を理由とする出国規制を施行

中国は9月15日、産業・技術安全保障を害する可能性があると判断した中国国民に対し、出国を制限できる新しい規則を施行しました。

中国国外で国家安全保障を害する違法行為を行ったと認定された国民は、帰国後6カ月から3年間、出国を禁止される可能性があります。外国人についても、査証申請で虚偽申告をした場合、1年から5年間の入国禁止が可能になります。

台湾当局は、中国で働く台湾の半導体・技術関係者に規則が適用される可能性を警戒しています。技術者の移動制限が広がれば、中国と台湾の間で活動する半導体企業や研究機関の人材配置に影響する可能性があります。

ただし、現時点では半導体企業の生産や業績に直接的な影響が出たことは確認されていません。まずは人材移動と技術情報の管理強化として監視すべき段階です。

(Reuters 9/15)中国の技術安全保障と出入国規制

7.米中関係 イラン支援を巡る金融制裁が焦点

ベッセント米財務長官は、今週末に中国の何立峰副首相と会談すると表明しました。9月24日に予定されるトランプ大統領と習近平国家主席の会談に先立つ協議です。ただし、中国側は首脳会談を正式には確認していません。

主要議題は、イランと中国の金融・原油取引です。米国はすでに一部の中国系独立製油所を制裁対象としていますが、大手金融機関への制裁は見送っています。

米国が中国の大手銀行や大手製油所まで制裁対象を拡大すれば、米中貿易、人民元相場、中国株、原油決済に影響する可能性があります。一方で、中国がイランへの働きかけに応じれば、中東情勢を沈静化させる外交経路になる可能性も残ります。

(Reuters 9/15)ベッセント財務長官と何立峰副首相の会談

8.北朝鮮 新たな発射は未確認、警戒水準は維持

北朝鮮は9月12日、元山付近から短距離弾道ミサイルを複数発射しました。飛行距離は約250キロメートルでした。

発射は、日米韓の共同訓練「フリーダム・エッジ」が終了した翌日に行われました。北朝鮮は実弾射撃訓練の一部だったと説明しています。

9月16日午前6時までに、これを上回る新たな発射や核実験は確認されていません。ただし、日米韓訓練に対する対抗措置という性格が強いため、追加発射の可能性は残っています。

(Reuters 9/12)北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射

9.影響を受ける株式・セクター

上昇要因が強い銘柄

  • 1605 INPEX
  • 5020 ENEOSホールディングス
  • XOM エクソンモービル
  • CVX シェブロン
  • COP コノコフィリップス
  • RTX RTX
  • LMT ロッキード・マーチン
  • NOC ノースロップ・グラマン

原油高は石油開発・エネルギー企業の販売価格を押し上げます。また、米国の迎撃ミサイル在庫回復には数年を要するため、防衛関連企業には中長期的な受注増加要因となります。

下落要因が強い銘柄

  • 9201 日本航空
  • 9202 ANAホールディングス
  • DAL デルタ航空
  • UAL ユナイテッド航空
  • AAL アメリカン航空グループ

航空会社は燃料費の上昇を直ちに運賃へ転嫁できないため、原油高が続くと利益率が低下しやすくなります。

影響が広がるセクター

  • 石油・天然ガス:上昇要因
  • 防衛・ミサイル:受注増加要因
  • 航空・陸運・海運:燃料費と保険料の上昇要因
  • 化学・鉄鋼・紙・ガラス:エネルギー費上昇要因
  • 一般消費財:物価高と金利上昇による需要減速
  • 半導体・AI関連:長期金利上昇による株価評価の低下
  • 銀行:金利上昇は利ざや改善要因だが、債券評価損と信用不安には注意
  • 市場全体:原油高と長期金利上昇が継続すれば下落要因

10.地政学的リスク評価

発生確率と経済的影響を、それぞれ5段階で評価しました。5が最も高い評価です。

リスク 発生確率 経済的影響 方向性
中東の供給障害長期化 5 5 悪化
ブレント原油120ドル突破 4 5 上昇
ロシア・ウクライナのエネルギー攻撃 4 4 悪化
NATOとロシアの偶発的衝突 3 5 やや上昇
米国の対中国金融制裁拡大 3 4 首脳会談待ち
北朝鮮の追加発射 3 3 横ばい

11.本日の監視ポイント

  1. 米連邦公開市場委員会が0.25%の利上げを実施するか
  2. サウジアラビア東西パイプラインの修復時期
  3. ホルムズ海峡の通航数が4隻から回復するか
  4. ブレント原油が110ドル、120ドルを突破するか
  5. 米国が中国の大手銀行・製油所まで制裁対象を広げるか
  6. ロシアとウクライナがエネルギー攻撃停止を実行するか

室井の視点

9月16日の市場を支配しているのは、軍事衝突そのものよりも、原油供給減少からインフレ、利上げ、長期金利上昇へつながる経路です。

特に、ホルムズ海峡とサウジアラビアの迂回パイプラインが同時に機能しなくなった点は重大です。原油価格が120ドルへ接近すれば、エネルギー株だけが上昇し、半導体、AI、航空、消費関連株を中心に市場全体が下落する可能性が高まります。

 


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